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1月4日:生と死を考える。

 

1ヶ月分の家賃37000円を払った後の

銀行残高は、11万7000円になっていた。

 

明細書を持つ手が震えた。

鼓膜の奥で、

サッと血の気が引く音が聞こえた。

 

夏、九州のとある孤島の旅館で溜めた資金50万は、

瞬く間に底を尽きようとしている。

 

もちろん、月々の生活費を計算していけば

こうなることは9月の段階でわかっていた。

 

生活費を計算すると、

僕の貯金は2月で尽きることになっていた。

 

アフィリエイトの報酬が振り込まれるのは2ヶ月後。

 

つまり、12月までに稼げるようにならなければ、

ここあいりん地区の路上に転がっている浮浪者の

仲間入りを果たさなくてはならない。

 

そして大阪で暮らし始めた9月、

僕がインターネットで稼ぐ能力は

月収1万円にも満たなかった。

 

大阪に来てからの4ヶ月間、毎日、

「死」について考えない日がなかった。

 

組織の後ろ盾もない。

頼れる人間もいない。

友人や家族はみな遠くにいる。

 

かといってアルバイトは絶対にしたくなかった。

僕は、自分の力だけで、自分の生活が

成り立つことを証明したかった。

 

証明しなければ、世界一周など夢のまた夢。

自分ひとりさえ食わしていくことができずに何が夢だと思った。

けれど、実際の自分は、

月に1万円も稼ぐ力もなかった。

 

 

一歩踏み出すごとに、新しい問題が噴出した。

検索エンジンに嫌われる。

いくら待っても反映されない。

断腸の思いで購入した被リンクツールが全く効果を発揮しない。

サイトに人が来ない。

来ても商品が売れない。

売れない。

また売れない。

 

いくらサイトを作っても、

報酬画面は「0」の数字を並べるばかり。

挙句の果てにパソコンまでが壊れた。

 

大阪ミナミの路地裏を歩きながら、何度も泣いた。

 

いくら「稼ぎたい」という想いが強くても、

そんな想い、実際に「稼げる」こととは

何の関係もないのだと知った。

 

自分の力が足りないことが、

自分ひとりの生活さえ成り立たせることができない自分が、

悔しくて悔しくてならなかった。

 

涙を流しても、それは報酬の1円にもつながらないという

事実にまた憤怒し、絶望した。

けれど諦められなかった。

諦めたらその瞬間、僕の死が決定してしまうような気がした。

 

死にたくない。

生きていたい。

自分自身の力で、生きたい。

 

自分がこれほどまでに生に執着する人間と初めて知った。

そして、旅への渇望、

自由への渇望が、いかに激しいものと知った。

 

2ヶ月が過ぎ、3ヶ月が過ぎたころ、

四方八方デタラメに広がっていた仕事の線が、

糸のように絡み合って、次第に1本の強い綱になってきた。

 

分散していた仕事の無駄がなくなり、

1日にこなすべき作業がシンプルになってきた。

 

9月の頃に頭を悩まし吐き気を催していた問題の、

すべての解決方法を知るようになった。

 

問題が起こった時に

イチイチ悩み煩わされることがなくなった。

問題は、起こるものなのだ。

そして、それを解決することが僕の仕事だった。

 

11万7000円と記載された明細表を部屋に持ち帰って、

冷静に、12月の稼ぎと、2月に振り込まれる報酬とを計算してみた。

 

大丈夫、まだ、生きていける。

 

9月からの4ヵ月間、必死になって稼いだ成果が、

3月を生きる権利を僕にくれた。

 

与えられた1ヶ月の権利を、僕は全力で生きる。

そして、4月の僕が生き延びるよう、

今日の僕もまた全力で生きる。

 

全力で生きて、生きて、生き続ける。

明細書を持つ手をグッと握りしめると、

引いた血の気が一気に噴出して

ドクリドクリとうるさく鳴った。

 

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