3月13日:20代のすべてを、この夢の実現に捧ぐ

昨日、久しぶりに音楽の仕事依頼を受けた。

千葉で音楽活動をしていた時、お世話になっていた方からの紹介で、大手メーカーからの依頼で早急にベーシストが一人必要とのこと。真先に自分に声をかけてくれたようだった。

その電話を受け取った時、まず思ったことは、

「どうしてこんな電話が自分にかかってきたのだろう?」

ということで、

この半年間、楽器に触ることなく、ただパソコンと格闘していた自分は、ほんの一年前まで、プロのミュージシャンを目指して活動していたことを、すっかり忘れていたのだった。

21歳から23歳まで、自分の生活は音楽一色に染まっていた。

仕事をしながら、毎日ジャズに明け暮れ、池袋や新宿のジャム・セッションを梯子し、バンドを掛け持ちして、アレンジ用の楽譜を喫茶店に籠って書き続けていた。

持ちうる限りの時間と情熱を注ぎこみ、全てをベースという楽器に捧げていた。

社会人1年目のプレッシャーと、夢への情熱を両立させることは難しかったけれど、

「夢がある。ただそれだけのために、生きる。叶わなければ、死あるのみ」

という刹那的な生き方は、自己陶酔と快楽の、なんともいえない甘い味があった。

昨日電話を受けるまで、すっかりそんな過去があったことを忘れ去っていたのだった。

その人の声を聴きながら、地獄の窯で煮込まれるような情熱の、ドロドロとしたあの熱い感触を思い出したとき、

それが遠い前世の記憶のように思えて、自分も随分遠い場所に来たのだなと実感した。

「実は、もう音楽からは足を洗っていて、今は大阪で起業して、新しいことに挑戦しているんです。7月から出国して、それから5年間は帰ってこないつもりです。」

そう伝えると、その人は素直に喜び、自分の門出を応援してくれた。

随分お世話になっていただけに、残念がられるのかと思ったけれど、その真逆の反応でなんだか拍子抜けしてしまった。

何をしているのかということより、

何かに挑戦しているということそのものが、

誰の批判も意見を挟む微塵の隙間もないほど、貴いことなのかもしれない。

1年前の自分は「ベース一本で世界一周をする」と豪語していたが、

世界一周をするための武器が、

ベースからビジネスに変わっただけで、

今の自分も、昔の自分も、同じ夢を追いかけているように感じる。

5年後、10年後の自分も、同じ夢の延長線上に立っていて欲しい。

表現の手段は変わっても、追い求めるものが違っていても、

今の自分ではまだ描くことができない夢を、地球規模の巨大なキャンパスの上に描いていたい。

20代のすべてを、この夢の実現に捧ぐ。

阪口ユウキ

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