9月25日:ここは、可愛い女の子の生息地域ではないのだ。

大阪に来てから見かけた可愛い子といえば、道頓堀の本屋の美術書コーナーにいた知的な黒髪の乙女だけで、絶望的なほどにときめく出会いが少ない。
 
第一の理由は、僕の行動範囲が新今宮〜日本橋という、労働者街と電気街を南北に結ぶ、堺筋に限定されているからなのだろう。出会いを求めるならあと2kmほど北に行かなければならない。可愛い女の子の生息地域では、ここはない。

そういえば一度、日本橋のアーケード街で、別れた彼女に似た人と擦れ違った。

こんなところにいるはずがないのに、ショートカットの黒髪や美少女特有の雰囲気や、どこか間の抜けた表情にとても懐かしいものを感じた。

なにを、話せばいいのか、何を伝えればいいのか。誰とも話すことがなかった数週間の間に、口はすっかり退化してしまっている。声を出す、ということを忘れてしまった。

しばらく歩いてから、これを逃したら生涯後悔すると思って走ったが、もう、どこにも姿は見つからなかった。

もう、あの子と会ったとして何を話していいのかまるでわからないのだけど。それでも、たとえ空腹がみせた幻想であっても、胸にともった火は、あたたかかった。

今の僕には、過去の青春時代はまるで魂にこびりついた前世の記憶のように思える。

阪口ユウキ

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