3月19日:職質を受けた、気怠い初春の朝

今日、街を歩いていたら、いきなり私服警官2人に囲まれ職質を受けてしまった。

職質を受けることは、車で日本一周をしている時にも数回あったのだけど、ここあいりん地区に来てからは初めてだったので、かなり動揺してしまった。

時間は朝10時。

近所のスーパーに朝飯兼昼飯を買いに行った帰りだった。

警官ふたりに囲まれたのは、宿近くのローソンで、おやつのポップコーンでも買って部屋に戻ろうとしていたら、

急に自転車に乗った私服警官が僕の前で急ブレーキをかけ、「ちょっといい?」と有無を言わさず迫ってきたのだった。

「こんなところで何をしてんの?」

「仕事は?」

「どこに住んでるの?」

東京で仕事を辞めてから独立し、事業が軌道に乗るまでの期間、生活費を抑えるためにこの地域に越してきたこと。

あと3ヶ月でこの場所を去り、そのあとは留学すること。

そんなことを話したら、強張っていたふたりの顔は急に柔和になった。

さすがにそんな奴がこの地域にいるとは思っていなかったらしく、非常に珍しがられて、色々と世間話をすることができた。

職質で受ける質問は上記のとおり、だいたい決まっているのだけど、ちょっと他の場所と違うなと思ったのは、

「危険物の所持」

に関して、非常にデリケートな取り調べを受けたことだ。

両脇をあげさせられ、軽くパンパンと身体をたたかれる。

ズボンのポケットに、警官の手が触れる。

これは? 財布です。これは? 携帯です。これは? 鍵ですよー。

話によると、この地域では新聞には載らない、殺傷事件がたまにあるようで、路上にぐったりと座り込んでいる浮浪者の懐に、ナイフが入っていることは決して珍しくないとのこと。

ここあいりん地区では、怒鳴りあいの喧嘩は日常茶飯事であり、ちょっとした激情で、ブスリとやってしまうことがあるようだった。

冬の間は、寒さで力が出ないからおとなしくしているが、春になるとたまに、そうゆう事件が起こるので、今取締りを厳しくしているのだと教えてくれた。

警官ふたりはきっと、はじめ、僕を麻薬の密売人かなにかだと思ったに違いない。

ここあいりん地区は、24歳の青年が月曜朝から散歩しているような場所ではなく、

ここにいる若者は、職人見習いか、麻薬の密売人か、国籍不詳の外国人か、そのいずれかしかないからだ。

職人さんは朝早くに出払っているし、僕は彼らのようにガタイがいいわけでも、髪を染めているわけでもない。

旅行者のようにおどおどしているわけでもなく、痩せ形で眼光は鋭いので、まあ消去法で、麻薬関係者ということになってしまうのだろう。

「君はずいぶん危ないところに住んでいるなあ。ここがどうゆう場所かは知ってるんだろう?」

「ええまあ。でも堂々としてれば、絡まれることないですよ。奥の方にも行かないようにしてますし」

「奥の方っていっても、ここも十分危ない場所だけどなw」

それは十分わかっているつもりだ。

実際、僕の住んでいる宿の裏は麻薬の取引場になっていて、日中から夜までずっと、路上に立っている男たちがいる。

それが麻薬関係と知っているのは、まだここに来て間もない頃、そうとは知らずに、彼らの前を通りかかった時、やあやあと話しかけられたからだ。

「覚せい剤あるよー」

テレビや漫画でありがちなその台詞を、まさかそのまま自分に投げかけられるとは思わなかった。

「薬は、やりませんよ」

そう答えると、彼は意外そうな顔をして僕の目を覗きこんだ。

それ以上なにも言われなかったが、その瞳が語らんとすることはわかった。

「薬もやらないのに、どうしてお前みたいな奴が、こんなとこいるんだよ?」

西成暴動@2008

 

この暴動の映像から自分の住む宿までは200メートルも離れておらず、

もし近日中に暴動が起これば(まあその心配はなさそうなのだけど)、間違いなく自分もまきこまれるに決まってる。そうゆう場所に僕はいる。

堕落と倦怠、酒とたばこ、労働者と浮浪者にまみれた、日本で唯一のスラム街。

この場所で、僕はネットビジネスを0からはじめ、中国古典や英語の勉強をし、留学と世界に出ることを夢見、なんとか出国できる力を得ようとしている。

ここでずいぶん、鍛え上げられたような気がする。

この、たとえば合コンとかでは絶対に語れないような泥臭い体験が、自分の血肉となり、ネタとなり、人にはないユニークな経歴となって、後の自分に繋がると信じたい。

今回はちょっと、普段は書くのを躊躇っていたダークな部分について書いてみました。

あ、ちなみに職質を受けたからといって、酷い恰好をしてるわけじゃありませんよw

東京に行けば、どこにでもいる、普通の青年に見えるハズなんですが(そう信じたい)。

阪口ユウキ

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