2012年10月から12月までの間。僕はタイのとある田舎町で、個人で貿易事業をされていた片瀬さん(仮名)という方に弟子入りしていたことがあります。
片瀬さんは当時60歳くらい。それまで勤めていた貿易商社を早期退職して、数年前からタイに移り住んできました。現在は貿易業の傍らリサイクルショップを奥さんと一緒にやっていて、子ども2人と仲良く暮らしています。
弟子入りといっても、何か仕事を熱心に手伝っていたわけではなく、
毎日片瀬さんの家にお昼ごはんを食べに行ったり、夜になったら近くのバーでお酒を飲みに行ったり、弟子というよりは「暇つぶし相手」といった感じでした。
僕は当時25歳。この年齢の日本人はまず住み着かないような田舎町だったので、片瀬さんも珍しがってくれたのだと思います。そうして一緒に食事をしたり、お酒を飲みながら、いろいろなことを学ばせていただきました。
片瀬さんがやっていたのは「個人貿易」です。
といっても、ebayなどで安く商品を仕入れてきてそれをAmazonで売る、といった小さな転売ビジネスではありません。
日本のリサイクルショップの倉庫にある在庫をそのまま買い取って、コンテナに積んで海外に運んでいく。といった、個人のスケールを超えた、まるで「商社」のような仕事をひとりでしていた方でした。
目利きをし、コンテナに詰め込んで世界に商品を運ぶ。
「海外に運んでいく商品っていうのは、どこから仕入れてくるんですか? 何かルートみたいなのがあるんです?」
いつものように片瀬さんの自宅でお昼ごはんをご馳走になっていたとき、僕はそんな風に尋ねてみました。
「まあ、昔働いてたときのツテもあんねんけど、一番多いのは、リサイクルショップやな。あそこな、店頭に出てるのは一部で、倉庫に放り込まれている商品がぎょーさんあんねん。せかからそこの社長と仲良くなって、倉庫の中見せてもらえまへんかー?って。それで見せてもらって、倉庫丸ごと買い取んねん」
「倉庫丸ごとですか!?」
と僕は驚いて言った。
「せや。日本ではもう売れへんよなものもいっぱいあって、社長も困っててな。せやから、僕みたいなのが行って丸ごと買いますよーって言うと、まあ喜ばれるわ」
「倉庫丸ごと買い取って、、、その商品が売れるか売れないかって、わかったりするんです?」
「せやな。商品を見れば、それをどこの国に持っていけば高値で売れるかはすぐにわかるわ。たとえば商品を見て、ミャンマーに売れそうだなーと思えば現地にいる仲間に連絡してな、携帯で商品写真を写メして送るねん。欲しい言うたら、倉庫にあるものを買えるだけ買ってな、それをコンテナに積んで運ぶのさ」
「コンテナって、、、個人で動かせるものなんですね!」
「まあ俺はずっと貿易やってたから、そのときの伝手があってな。まあ高くつくけど個人でも借りれんねん。まあコンテナはバカ広いから、空いたスペースでその国で売れそうな商品もついでに仕入れてくるのさ。仕入れて売って、仕入れて売って、貧乏暇なしだぜ!」
片瀬さんはもともと企業で貿易業に携わっていたそうで、タイの支社長を長年務めた後で独立。そのときに培った目利きや経験、ツテなどを活かしながら、個人で商品を仕入れてコンテナで運び、生計を立てているとのことでした。
阪口くん、ブランド店で売れ残った商品はどこに行くと思う?
「あとはあれやなな、帰国するときには○○に行ってブランド品を仕入れて売ってるわ」
「○○って、、、あの町ですよね? そんなところにブランド品なんて売ってるんですか?」
片瀬さんが言ったのはタイのとある田舎町の名前で、僕も名前は聞いたことがあっても、ブランド品とは全く結びつかないような場所でした。
「そうや。しかもタイ人価格で売っててな。数千円で信じられない逸品がごっそり手に入るんや!」
「あの、それって、、、」
「偽物だと思うやろ? ちゃうねん」
「本当ですか?」
「すげーぜ、全部本物やねん!まあ目利きをする必要はあんねんけど、それでも本物が多いわな。ちょっと待っときや」
そういうと片瀬さんは奥に引っ込んで、しばらくすると、両腕にじゃらじゃらと、抱えきれないほどのベルトを持ってやってくる。
「これな、グッチとかシャネルのベルトやねん。こっちはバリー。カッコいいやろ?これ、全部本物やねん」
僕はブランド品には疎かったので、それが本物かどうかはわからなかったのですが、言われてみればたしかに良いモノのような気がする……。
「どうしてそんな町に、そんなブランド品があるんですか?」
「阪口くん、あのな、ブランド店で売れ残った商品はどこにいくと思う?」
「売れ残ったブランド品ですか?」
「せや。まずはアウトレットに流れたり、各地のショップに流れたり、色々なところを転々とするな。その国で売れなかった商品はどこに行くと思う? 別の国で販売されるんや。そうして商品は、色んな国のショップやアウトレットをめぐりめぐっていく。そして、最後に商品が辿り着く場所がある。○○って町は、その最後の行き止まりのひとつや」
「あの町、、、そんな場所だったんですか!?」
「世界にはこうした市場がたくさんあんねん。ブランド品は○○に流れ着く。他の商品はまた別の町に流れる。そうした市場をひとつ押さえておくとな色んな商売ができんねん。色んな町をふらつきながら各地の市場のことを聞きまわってると、たまにこうした市場に行き当たるのさ」
「そうして買った商品もやっぱりコンテナに積むんですか?」
「これはお小遣い稼ぎだからな。まあスーツケースに詰め込んで、持ち運ぶんや。大阪にいる仲間がこうしたもんほしがっててな。現物の写メして送って、値段交渉してOKがでればまとめ買いや!2000円で買うた靴が2万3万で売れるからな。だいたい旅費はそこで稼いでるんさ。すげー儲かるぜ!」
世界の市場をめぐる貿易トラベラーの可能性
もし世界を旅しながらこうした市場を見つけることができたなら。
Facebookをうまく活用してファンを増やしそこで繋がった人に商品を紹介して、販売をすることもできますし、自分のオンラインショップを作ってそこで仕入れてきた商品を販売することができます。
そうした物販の仕組みをつくることもできますし、「世界を旅する個人貿易家になるには?」というノウハウや技術を誰かに伝えることでコンサルティングやセミナー講師を務めることもできるでしょう。
モノを見つける力と、それをWEBで販売する力。このふたつが掛け合わされば、面白い仕事をいくらでも作ることができます。
そうして世界を旅しながら、市場を巡り、その市場で見つけた良い商品を仕入れてそれを欲しがっている人に売る。僕が思いもつかなかった、旅をしながらでもできる仕事の仕組みを、僕は片瀬さんといた2ヶ月間で学びました。
世界にはたくさんの働き方があり、可能性があります。世界の市場をめぐる貿易トラベラー、興味がある方はぜひ挑戦してみてください。