荷造りは、瞬く間に済んだ。
バックパックにパソコンと、机代わりにしていた本を詰めて、服と洗面用具類をまとめれば、それで終わり。
8ヶ月間暮らしていたとは思えないくらい、荷物は少なかった。
よく、晴れていた。
最上階にある僕の部屋は、廊下から屋上にのぼることができた。屋上からあいりんの街並みと、通天閣を眺めていると、これまでのことが鮮明に思い浮かんできた。
この8ヶ月間で、僕は変わることができたのだろうか。
8ヶ月前よりも体重が5キロ減った。人付き合いが苦手な性格もそのまま、相変わらず友達もいない。むしろ、引きこもっていたせいで余計にひどくなった気がする。
しかし、ここにきた初日。この屋上で同じ景色を見下ろしたとき。僕はここ以外で生きる力もなければ、ここですら生活を成り立たせられるかわからなかった。
今の僕は、ここででも、他の場所ででも、生きることができる力をつけた。
もちろん、今の稼ぎでは行動範囲は限られるけれど、余裕がなかろうがなんだろうが、今、僕にはそこで生き抜くための力があり、そこで生きるための武器をもっている。その違いは、天と地ほどの差に思えた。
これから僕は世界に出る。
そして仕事を続けて、今の何倍も稼ぐ力を身につける。
そうしたら、お洒落をしたり、友達や恋人をつくる余裕もでてくるだろう。そのうちに性格も明るくなるかもしれない。その、ひとつひとつの力を、一歩一歩、進んで身につけていけばいいのだ。僕がこのあいりん地区で、ひとりでも生きる力を身に着けたように。
まずは実家の千葉へ。そういえばここに来る前、僕は鬱病で実家のベッドで伏せっていたのだった。もうそれは、遠い過去の、前世のようにも感じた。
しばらくは千葉で目を治し、僕がこのあいりん地区で学んできたことを、それを求めている人に伝え、そして、
出国します。
阪口ユウキ