今日、街を歩いていたら、いきなり私服警官2人に囲まれ職質を受けてしまった。
職質を受けることは、車で日本一周をしている時にも数回あったのだけど、ここあいりん地区に来てからは初めてだったので、かなり動揺してしまった。
時間は朝10時。
近所のスーパーに朝飯兼昼飯を買いに行った帰りだった。
警官ふたりに囲まれたのは、宿近くのローソンで、おやつのポップコーンでも買って部屋に戻ろうとしていたら、
急に自転車に乗った私服警官が僕の前で急ブレーキをかけ、「ちょっといい?」と有無を言わさず迫ってきたのだった。
「こんなところで何をしてんの?」
「仕事は?」
「どこに住んでるの?」
東京で仕事を辞めてから独立し、事業が軌道に乗るまでの期間、生活費を抑えるためにこの地域に越してきたこと。
あと3ヶ月でこの場所を去り、そのあとは留学すること。
そんなことを話したら、強張っていたふたりの顔は急に柔和になった。
さすがにそんな奴がこの地域にいるとは思っていなかったらしく、非常に珍しがられて、色々と世間話をすることができた。
職質で受ける質問は上記のとおり、だいたい決まっているのだけど、ちょっと他の場所と違うなと思ったのは、
「危険物の所持」
に関して、非常にデリケートな取り調べを受けたことだ。
両脇をあげさせられ、軽くパンパンと身体をたたかれる。
ズボンのポケットに、警官の手が触れる。
これは? 財布です。これは? 携帯です。これは? 鍵ですよー。
話によると、この地域では新聞には載らない、殺傷事件がたまにあるようで、路上にぐったりと座り込んでいる浮浪者の懐に、ナイフが入っていることは決して珍しくないとのこと。
ここあいりん地区では、怒鳴りあいの喧嘩は日常茶飯事であり、ちょっとした激情で、ブスリとやってしまうことがあるようだった。
冬の間は、寒さで力が出ないからおとなしくしているが、春になるとたまに、そうゆう事件が起こるので、今取締りを厳しくしているのだと教えてくれた。
警官ふたりはきっと、はじめ、僕を麻薬の密売人かなにかだと思ったに違いない。
ここあいりん地区は、24歳の青年が月曜朝から散歩しているような場所ではなく、
ここにいる若者は、職人見習いか、麻薬の密売人か、国籍不詳の外国人か、そのいずれかしかないからだ。
職人さんは朝早くに出払っているし、僕は彼らのようにガタイがいいわけでも、髪を染めているわけでもない。
旅行者のようにおどおどしているわけでもなく、痩せ形で眼光は鋭いので、まあ消去法で、麻薬関係者ということになってしまうのだろう。
「君はずいぶん危ないところに住んでいるなあ。ここがどうゆう場所かは知ってるんだろう?」
「ええまあ。でも堂々としてれば、絡まれることないですよ。奥の方にも行かないようにしてますし」
「奥の方っていっても、ここも十分危ない場所だけどなw」
それは十分わかっているつもりだ。
実際、僕の住んでいる宿の裏は麻薬の取引場になっていて、日中から夜までずっと、路上に立っている男たちがいる。
それが麻薬関係と知っているのは、まだここに来て間もない頃、そうとは知らずに、彼らの前を通りかかった時、やあやあと話しかけられたからだ。
「覚せい剤あるよー」
テレビや漫画でありがちなその台詞を、まさかそのまま自分に投げかけられるとは思わなかった。
「薬は、やりませんよ」
そう答えると、彼は意外そうな顔をして僕の目を覗きこんだ。
それ以上なにも言われなかったが、その瞳が語らんとすることはわかった。
「薬もやらないのに、どうしてお前みたいな奴が、こんなとこいるんだよ?」
西成暴動@2008
この暴動の映像から自分の住む宿までは200メートルも離れておらず、
もし近日中に暴動が起これば(まあその心配はなさそうなのだけど)、間違いなく自分もまきこまれるに決まってる。そうゆう場所に僕はいる。
堕落と倦怠、酒とたばこ、労働者と浮浪者にまみれた、日本で唯一のスラム街。
この場所で、僕はネットビジネスを0からはじめ、中国古典や英語の勉強をし、留学と世界に出ることを夢見、なんとか出国できる力を得ようとしている。
ここでずいぶん、鍛え上げられたような気がする。
この、たとえば合コンとかでは絶対に語れないような泥臭い体験が、自分の血肉となり、ネタとなり、人にはないユニークな経歴となって、後の自分に繋がると信じたい。
今回はちょっと、普段は書くのを躊躇っていたダークな部分について書いてみました。
あ、ちなみに職質を受けたからといって、酷い恰好をしてるわけじゃありませんよw
東京に行けば、どこにでもいる、普通の青年に見えるハズなんですが(そう信じたい)。
阪口ユウキ