指揮者をやるようになって、気がついたことがいくつもあります。
たとえば、音楽は色んなパート(楽器)が折り重なって、ひとつのストーリーをつくっていること。言葉にすると当たり前に思えることですが、指揮者用の全体楽譜をみるとそれがよくわかります。
たとえば、サックスのパートが途切れるタイミングで、その8分給付に、トランペットが鋭い音を差し込んだりする。トランペットが止まるタイミングで、再びサックスのメロディが流れ始める。まるで正確で美しいバトントスを続けるように、音と音とが連なっているのが、全体楽譜をみるとすごくわかるのです。
僕はこれまで、オーケストラの中ではベースとギターを担当することが多かったのですが、この2つの楽器は楽譜がないときも多く、「楽曲に合わせて、適切なアドリブをして弾く」ことも一般的でした。楽譜に対する敬意、というものが正直言ってそこまでなかったのですが、全てのパートを把握するようになり、その大切さがはじめてわかりました。楽譜、大事。
本当に当たり前のことですが、楽譜をしっかり読んでいくと、この作曲者がどんな楽曲を表現したかったのかもわかります。指揮者として、「この楽曲は、こういうイメージで演奏しよう」というのは伝えますが、まずは「この楽曲は、どう演奏されたいのかな、どう演奏されるべきなのかな」を考える時間は、今は亡き作曲者と対話をしているようで、指揮者でしか味わえない、とても贅沢な時間でした。
新幹線の中での移動中に楽譜をチェックしていたときの1枚。指揮者用の楽譜は、全てのパートが縦に並んだ楽譜を、1枚1枚セロテープで貼り付けて、山折り谷折りしてつくります。以外とこの作業に時間がかかることも知りました。
色んな楽曲を積極的に聞くようになった、ということも変化として挙げられます。
本番が決まったときは、基本的にはオケで演奏する楽曲と、その楽曲のアレンジを中心に聞きますが、本番が終わった後も、色んな楽曲を指揮者目線で聞くようになりました。ジャズのビッグバンドからクラシックの楽曲まで。特にクラシック音楽に対する音の聴こえ方はだいぶ変わりました。感覚的にいうと、英語の音に慣れ、がだんだんと聞き取れるようになったような感じです。これまで知らなかった楽器(パート)の音を覚え、それがどういう音域で鳴らされている音かを知ったことで、ひとつの楽曲を聴くときにも、色んな音が聴き取れるようになりました。また、この曲はどう指揮をするか、どう表現をするかを考えたりと、日常の中の音楽の浸透圧が、ぐっと上がったように感じます。
僕は、音楽をはじめたのは3歳の頃からですが、これまで僕は、音楽を聴いていたようで、全然聴いていなかったのかもしれないな、ということも感じました。これから色んな感覚がひらいて、より色んな音の世界を探求できるようになると、また違ったものの見え方ができるんだろうなと感じます。