「俺、タイにいたとき、貯金が10万円超えたことなかったですからね」
「出国したときも、たしか入金待ちで口座ん中、1万円しかなかったッスよ」
「まあ、なんとかなるもんスよねー」
唯一、本当に海外に飛んできた「彼」
僕は「旅資金を稼ぎながら旅をする」ということを生業にしているため、お会いした色んな方から、「そんな風に、世界に住んでみたいです」と言われる機会が多いです。
しかし、本当に海外に来て、住み着いちゃったのは今のところ彼、タイガさんだけです。
もしかしたら今後、彼以外は現れないかもしれません。
タイガさんは僕と同い年。僕と同じように、WEBだけで生計を立てている人間です。
もともと僕があいりん地区にいたときにブログ経由で仲良くなったのですが、同じように崖っぷちの状況でアフィリエイトをやっていて、お互い助けあいながら仕事を伸ばしてきました。
2013年の3月。僕がタイのチェンマイに住んでいるとき、おもむろにタイガさんもチェンマイに合流。そして、そのまま4ヶ月間、一緒に仕事をしました。
タイガさんはそのとき、WEBの月収は、ギリギリ10万円超えるくらい。
出国前にPCを買い換えたり、航空券を買ったりで、銀行残高はほぼすっからかん。
しかも彼、英語が話せないのはもちろんのこと、海外旅行をするのも初めて。出国ギリギリでようやくパスポートを取得するほどでした。
え、ホントに来るの?
「10万円あれば暮らせるんスよね」
「うん、ギリギリいけますよ。日本で仕事するのも、海外にいるのも、僕らって変わらないじゃないですか」
「そうっすよねー。福岡もそろそろ飽きてきたんでじゃあ、行きますわ」
「え、ホントに来るの?大丈夫?」
「なんとかなりますってー」
僕は、自分のライフスタイルは、けっこう苦労して手に入れたものと思っています。
福岡の旅館で住み込みで働き、大阪あいりん地区に潜伏して8ヶ月間サイトを作り続けた。そうしてようやく、出国することができた。僕以外の人間が、気軽に来れるとは、正直思っていませんでした。
だけど、彼はやってきた。
福岡に飽きた、という、ただそれだけの軽い理由で。
その日、彼は本当に海外に飛んできた。
3月。驚くほど少ない荷物でチェンマイ空港に下り立った彼は、
「阪口さんの住んでるアパート住みますわー」
と平気な顔して、アパートの別室に転がりこんできました。
彼の生活は、不規則に規則正しいものでした。
朝に寝て、昼過ぎに起きて、暑さにぐだぐだしながらも、きっちりサイトだけは作る。
そうして夜中に2時間ほど走る。走ってからまたしばらくサイトを作って、明け方に寝る。日本と同じらしいその生活を、4ヶ月間繰り返します。
チェンマイにはお洒落なカフェが、徒歩圏内にたくさんあります。僕はよくそこまで出て行って、現地の大学生に混じりながら仕事をしていました。
しかしタイガさんは、そんな「カフェで仕事をする」なんてことを日本でもしていなかったので、ここチェンマイに来ても、外にでるのはたまの観光と飯、散歩くらい。
それと夜に走る時だけで、基本的には部屋でサイトを作り続けていました。
そうして4ヶ月が経ったある日、
「タイにも飽きたんで、そろそろ帰りますわー」
と、潔く荷物をまとめて、日本に帰っていきました。
そんな彼と、長崎で再会した。
日本縦断中、たまたま長崎に立ち寄ることになった僕は、久しぶりに彼に連絡を取ってみることに。
タイで別れてから、もう9ヶ月。彼は相変わらずゆるーい感じで「ヒマっすよー」と、ひょこひょこ長崎市にやってきました。
あとで聞いた話によると、彼は長崎の平戸という場所に住んでいて、そこは、バスと電車を乗り継いで3時間もかかる場所とのこと。3時間。
そんなことはひとことも言わず、「いや、ここ半年くらいなんも予定ないんで、いいんスよ」と、ホントに気にした素振りを見せず、ひょうひょうと笑っていました。
彼は帰国後、長崎の実家に戻り、そこでまた、サイトを作り続けて、最近月収が30万円を超えたとのこと。
長崎にも飽きたので来月からは大阪に引っ越し。
ずっといると飽きるので、安い部屋を転々としながら、地方を周る予定だと話していました。
最近では、WEBの仕事だけだと飽きるので、変なおじさんに弟子入りをして貿易について教わっているとか。
「他にやることもないし、暇なんでー」
と、あいかわらず、テキトーな感じで。
「暇なんで」という理由でも、結局、「行動する奴」が強いのだ。
彼を見ていると、
宣言だとか、決意だとか、やる気だとか、保障だとか、貯金だとか、余裕だとか、そうゆうものってどうでも良いのだと思います。
結局、「行動するかどうか」がすべてなんだと。
彼に聞いたところ、生まれてからいままで、こうなりたいとか、こうありたいとか思ったことがないそう。それでも、自分は他に普通の仕事もできないだろうし、こうやって生きるしかないと諦めて、そうしてずっとサイトを作り続けている。
僕が、パワートラベラーとしてやっている、海外でアパートを借りて仕事をすることなんて、きっとたいしたことじゃない。その人によっては、「暇なんで」という理由で、簡単に叶えられる状態なのかもしれない。
貯金がほぼ0円で海外に行く奴もいます。あなたはいつ、外の世界にでますか?