11日目:小岩井農場で牛乳を飲み、宮沢賢治記念館で詩に触れる。移動距離が長くなればなるほど、自分の未来は閉塞していく気持ちがした。

  • 走行距離90キロ
  • 小岩井農場で牛乳を飲む。
  • 宮沢賢治記念館へ行く。
  • ガソリン(4100)、岩手日報(130)、小岩井農場・牛乳・ソフトクリーム(1050)、100円ショップ(630円)、カップ麺(190円)、宮沢賢治記念館(800)、 『セロ弾きのゴーシュ』(560)

車中泊で寝坊できるようになった。これは進化である。

午前中は洗濯。太宰治の「女の決闘」を読んだ後、St.Thomasの練習。岩手に入ると、急に山との距離が近くなった気がした。

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最近牛乳を飲んでいない事に気がつき、通りがかった小岩井農場へ寄る。牛乳だけ買って買えるつもりだったが、牧場と名のつくものに入った記憶がない。500円で入園する。

ソフトクリーム350円と牛乳200円を飲む。思わず笑顔にならざるをえないほど上手かった。私服の修学旅行生たちが、放牧されていた。

花巻に到着したのが3時半。宮沢賢治記念館に行く。

DSC_1651 DSC_1656 DSC_1666彼は法華経や天文学だけでなく、地質学や農業にも精通していることに驚いた。物語に登場する岩石の名前は、詩的な意味ではなく、現実的な根拠を持っていた。科学と文学とが、あれほど詩的な境地に融合しきらきらと輝いている人は本当に稀だ。

道の駅@とうわに到着したのが5時。日が暮れぬうちにスパゲティを茹であげる。今日は実に散財した。とてもうまいものなど食える余裕はない。

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僕はプロの小説家にはなれないかもしれない。小説でお金をもらえることは一生ないかもしれない。そう思う時点で、小説家への道は閉ざされているように思えた。

小六のとき、趣味で書き始めた小説が面白く、現実逃避をするようにその世界にのめり込んだ。すべての授業中は妄想に費やし、小説用の大学ノートがちまちまと自分の言葉で埋まっていくことに快楽を覚えた。

ただ楽しかったから、それを続けていた行為が、いつのまにかそれで生計を立てなければならないという圧力に変わった。

ふつうのサラリーマンとして自分が働いている姿はどうしても思い浮かべることができなかった。どこか自由に、誰に所属するでもなく、自分自信の力と想像力だけで稼ぐことができたなら、それはどんなに素晴らしい世界だろうと想像した。

大学生になる頃にはその思いは確固としたものになり、僕の大学の4年間は、小説家になるがために小説を書かなくてはならないという強迫観念に追われて過ぎ去った。今もまだ、その途上にいるような気がする。

クリエイティブな仕事が自分に向いているのかは疑問だった。音楽にしてもそうで、自分の感性で新しいフレーズが生み出されることなど皆無だった。僕が弾く音楽は誰かしらがすでに生み出したもので、僕はそれを拝借するだけだった。その拝借するスキルにはなぜか長けていて、そのため周囲からはほめられることもあったが、その背後にはいつも、威を借りていた虎がいた。

こうして旅をしながら、音楽を練習し、車の中でPCを広げて文章を紡ぎ、それでも自分の未来は見えない。移動距離が長くなればなるほど、自分の未来は閉塞していく気持ちがした。

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