60日目:言葉が生まれる源泉のようなところが、嘘でまみれている

12/9(木)
温泉(400)、野菜ジュース(105)、卵(208)、昼食(200)=913

パリパリに乾燥した凍りつく夜。咽の奥に亀裂が入り、水を飲むと染みる。

夢の中で韓国人の青年と話した。しばらく話していると、彼は急に「何か嘘をついているでしょう」と糾弾してきた。なんのことか僕はわからなかった。

「そりゃ時々嘘をつくことはあるけれど」

「君の言動全体から、嘘の匂いを感じる。言葉が生まれる源泉のようなところが、嘘でまみれている」
といった趣旨の言葉を浴びせられたとき、僕は歪に笑うことしかできなかった。その歪さが、嘘つきの証拠のような気がして、よけいに心を堅く閉ざそうとした。

午前中は何も書けずに過ごした。街のイメージがまとまらなかった。支離滅裂で、自分勝手な街だと感じた。

ともかく設定を山梨県にすることにした。山梨県全体を、教育特区とする。甲府城から見下ろした、あの盆地特有の見下ろされた街並のイメージだ。県境を確かめるために北に向かった。小淵沢、八ヶ岳高原、小海を通り過ぎた。

八ヶ岳の頑固にそびえ立つ群青色の岩肌を眺めたとき、これは太刀打ちできないとの想いが、まずよぎった。同時に、今この時期にも、その山頂に立っている登山家の勇敢を思った。

県道11号の八ヶ岳高原ラインは、高度1200,1300,1400と越え、昨晩降り積もったばかりの純白の雪がうっすらと積もっていた。この汚れなき白さをどう表現したらいいだろう。手のひらに救うと、石川啄木の短歌のように、さらさらと指の隙間から光となってこぼれ落ちた。

色辞典で調べても、白の呼び名はwhitemoke,silver,乳白色と少ない。類語辞典では、純白、雪白、蒼白、白白とあるが、どれも適切でない気がする。だから「snow white」という単語があって、雪の純白を、snowという単語で想起させて補ってもらうのだろう。

小海線の鉄道最高到達点には鉄道神社なる小さな祠があり、鉄道好きの願いを描いた絵馬が収められていた。そのなかに「将来、銀河鉄道の車掌さんになれますように」と子どもが書いていて、この清らかさだと滝にうたれた気分だった。

道の駅みまきの温泉に入る。夜、とうとう車内の四面の窓に新聞紙を咬ませる。午後5時から書き始めてようやく文体が決定する。ともかく、あと3日。

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