1日目:出発の日、震える手でハンドルを握りながら、青森へ向けて800キロを北上する。

2010年10月10日、午前7時。実家を出発する。

まずは青森を目指して800キロを北上する。本当は北海道を出発地点にする予定だったのだが、本州から北海道へはフェリーに車を乗せて片道10,000円もする。その額を捻出する予算はなかったため、ともかく北海道は切り捨てて、青森発、本州を南に攻めることにした。

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まず向かうのは、常磐高速道。最寄りの茨城・稲敷ICへ。

ハンドルを持つ手が震えている。これは新しい冒険に出発する緊張感だけではない。半年前、精神薬睡眠薬その他薬を日本酒で飲み下し、自殺未遂をしたその日から、自分の身体はどこか言うことをきかない部分があった。身体は、鉛に浸っているかのように重苦しく、呼吸は浅く、心の鼓動はたどたどしい。この思うようにならない身体をパートナーとし旅をしていかなければならない。

抗鬱剤は、もう3ヶ月も前に飲むことを止めていた。

それがいいのかどうかはわからない。ただ、本当に鬱を治すのであれば、自分の場合、薬の力で精神をどうにかするのではなく、自分の中途半端な夢に決着をつけ、自立をするほかないと気づいていた。

身体的な異常、これからひとり車中泊をしながら見知らぬ土地を行く不安、なによりも本当に自分は、路上で音楽を奏でることができるのか?という疑念、、、。この自分が、本当にひとりで車中泊をしながら列島を縦断し、小説を書き、路上で演奏をしながら旅を続けることができるのか、出発をしてもなお、信じることができなかった。

荷台には、ベースと機材一式を積んでいる。

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色々と調べたが、結局は最低限の機材に落ち着いた。

ガムテープを撒いて補強しているBaccusのベース、Roopstationのエフェクター、路上演奏用のベースアンプ、そして路上用のバッテリー。バッテリーの充電は、昼間走行中シガーソケットにつなげておけば、その夜演奏する分の充電ができることは事前に調べている。

この期に及んでもまだ、自分が弾ける曲は、1曲だけだった。

スティービーワンダーの「Isn’t She Lovely」。このベースアレンジがYouTubeに載っており、これを徹頭徹尾コピーした。そのコピーをはじめたのが今から3週間前、それをどうにか形にして今日を迎える。できあがりなど、どうでもいい。ただ自分は楽器を持ち、路上に立ち、昔から恋焦がれていたその風景の中に自分を立たせてみたかったのだ。

季節は秋。

僕は東北に行ったことがない。5年前の夏にいわきに行った覚えはあるけれど、秋冬の東北の寒さは、テレビ中継で拝見しているだけで、どんなものか全く想像がつかなかった。

「まだ10月だし、フリース一枚でことたりるかなと思ってるんだけど」

『東北の冬をなめるな』

と昨晩、電話で友人に一喝された。慌てて昨年ユニクロで買ったダウンジャケットと、用意していたシェラフとは別に寝袋を用意する。延々と猛暑が続いた夏の記憶が真新しく、これからすぐ冬が来るという実感が薄い。ともかく本格的に寒くなるよりも前に、冬から逃げるように南へ向かおうと思う。

高速ではいわきJCTを間違え、常磐道の終点で降ろされてしまう。まっすぐ北に向かえばいいと思い込んでいたが、なんとなく裏切られた気分だ。分岐点くらい、事前に確認するべきだったのだ。結局、下道で走り、ずいぶんと時間を食った。

夕方、盛岡手前のSAで休憩。このまま夜を迎えることにする。ずっと集中して前を見続けていたせいで、視界が点滅していた。

天気は雨。到着地青森の天気も、明日はまだ雨だという。雨の日は路上で演奏することはでいないし、雨上がりに間に合うように青森に到着すればいいだろう。

 

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